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【あんたか。俺に飯を食わせ、寝床を与えてくれるってのは。音の旅02】


前回の【2004年僕は脱サラした。音の旅01】の続きになります。

ディジュリドゥ職人さんのもとで住み込みで働いていた僕は、見習い中の為とにかくお金が無かった。

お金がないうえに、好きな事にはすぐお金を使う。

身なりはヒッピー、髪の毛も伸ばしっぱなしだ。

23歳のこの時の僕は正直ぶっ飛んでいた。

常時、お酒などで意識は変容し、そして、ついにお金も住む場所もギリギリの状態にまできてしまった。

そんなとき、ダーウィン内でインドのお寺?をしている、おばあちゃんが食事など込みで格安で旅人を受け入れてくれる。という噂を聞いて、命からがらの思いでたどり着いた。

門前からチャイムを鳴らすが、不在のようだった。

そこで、腹もすき、脱水症状気味のホームレスに近い僕は、そのままそこで意識を失うように、知らない間に眠っていた。

しばらくして、僕を呼び覚ます声が眩しい光と共に聞こえる。

「あなた誰なの?何をしているの?」

聡明で優しそう?厳しそう?

とにかく噂のおばあちゃんだ。間違いない。

野生児同然の僕はふてぶてしく、言葉を放った。

「あんたか。俺に飯を食わせ、寝床を与えてくれるってのは。」

忘れもしない自身、最低の態度と言葉だ。苦笑

今振り返れば、愛に飢え、荒れ、人間関係も含めてディジュリドゥ以外は全てがどうでもよくなっていたんだろう。

もっと驚いたのは、おばあちゃんの言葉だ。

「そうよ。私があなたを食わせ、そのカオスなストリートから引き上げるのよ。」

※以降の写真は全ておばあちゃん(スラビ)と2015年前後にクリシュナの聖地ヴリンダーヴァンで再開し一緒に過ごしていた時の様子。川はクリシュナがよく遊んでいたヤムナー河。絵は当時描いていた僕のもの。

 おばあちゃんの名前はSurabhi(スラビ)、当時の推定年齢60歳。

 後にわかったが彼女はisckonというインドはもちろん、世界中で盛んなクリシュナ信仰の開祖プラブパーダ氏の直弟子だった。

※聖地ブリンダーヴァンのisckon寺院の中で、ラーマナヴァミーの祝祭の祭司として皆に聖火やミルクなどを施すスラビ。

 完全なベジタリアンの食生活、食事前には祈りの儀式とクリシュナの御名を唱えるマントラ音楽・キールタンと踊りに明け暮れた。

 まったくそんな柄じゃなかった僕だが、キールタンだけは不思議と自然に楽しめた。

 おそらく、10代からそのころまで大好きだったトランスミュージックと共通点があったからだろう。

 最初のころはスラビに向かって偉そうに、「俺はキールタンと飯だけは食う。」なんて言ったものだ。

 ビートはそんなに早くなくても、繰り返すことでトランス状態に陥るこの感覚、音楽はいったいなんなんだろう。不思議だった。

 プラブパーダ氏がアメリカに渡りヒッピー全盛期にこのマハーマントラ(クリシュナのマントラ)を歌い唱え瞬く間に広まったさなかに自然とヒッピーの間で噂になったキャッチコピーは、、、

 「もう降りてこなくていい宇宙旅行。」

これは、ドラッグなどで安易にトリップはできるが、効き目が切れると必ずシラフに戻ってしまうことに対して、神様のマントラを歌い唱えるそれは、ハイにはなるが真我と共鳴するので、根本的なステータスが愛と神性で満ち続けることを意味する。

 まんまと僕もはまってしまった後は、徐々に神性とは何か?真我とは何か?をスラビから教わり、自分一人でも祭壇を作ったり、プラサード(お供え物)をしてから、食事するようになっていった。

※とにかく牛が大好き!スラビという名前も物語に出てくる牛の名前。

※ビシュヌ信仰のサインである額のV字マークをサンダルウッドなどのペーストで書いてもらう僕。

 一人でお供え物までするようになって、一時的ではあるが悟りとも近い体験をした。

 まず、料理を神様に食べて頂いて、その残り物を頂くわけだが、そこには神様が食べた後だと、植物などの命を積んでしまっている命の罪が浄化される。とある。

 が、それ以上に驚いたことは、クリシュナが好きすぎるあまりに、「最高のものを食べて頂こう!」と下手なりにでも料理には時間とエネルギーをかけるようになった。

 そして、気づけば自分が普段ではありえない美味しい食事を頂いていることに気づく。

 これは供物を例えとして、無や自然崇拝でないシンボル的な「人格的な神様」を崇める場合、あらゆる局面でこれがおこる。

 あらゆる人や命の中にクリシュナを見る。

 あらゆる出来事はクリシュナの示唆と感じる。

 そうすると、個人間にどういう出来事があっても、それは内なる神様との出来事として感謝するようになる。

 そうして、どこを見てもクリシュナしかおらず、クリシュナと関わることでカルマはおのずと神性を帯び始める。

※ブリンダーヴァンは3度滞在しているが、2007年のころにそこで描いたクリシュナ。

※これは2013年に描いた水彩ですね。

※これは2007年にブリンダーヴァンのisckonテンプル内で書いたもの。クリシュナが木の上でみんなに祝福を与えている様子をはっきりと見てしまった。

 スラビは徹底的だった。

 誰から見ても完成形のクリシュナの帰依者。

 しかし、本人はそんなことはおかまいなし。

 クリシュナの事だけを想い、クリシュナの事だけを聞き、クリシュナの事だけを語った。

 僕は未成熟ゆえに、肉をキッチンに持ち込んでるのがバレて叱られたり、朝4時のマントラ瞑想は起きれないこともしばしばだった。

 結局今も、人生を右往左往しながら半端なことばかりしていて、スラビにはまともに目を合わせれないが、あの時も、そして今もなお、ずっと変わらない愛を、クリシュナの祝福を確かに注ぎ続けてくれている。

 こうして、僕はどっぷりとクリシュナ信仰につかったまま、初渡印することとなる。

 ヒッピー同然、ディジュリドゥ片手に、中身はクリシュナラブ、まだまだ野生児満載の僕であったが、まさか北インド古典声楽ドゥルパドの扉をたたくことになるとは、当然知る由もなかった。

 当時23歳。

 つづく

※ヤムナー河にて。

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